「数学だけは本当にダメで……」「公式を見ても何のことかわからない」——高卒認定試験の受験を考えはじめた方から、私が最もよく耳にする声です。Academic Mentor の木部です。これまで100人以上の生徒さんと数学の学び直しに取り組んできましたが、断言できることが一つあります。「数学が苦手な人」のほとんどは、頭が悪いわけでも才能がないわけでもなく、ある特定の単元で「つまずきの連鎖」が起きているだけです。今回は、その連鎖を断ち切るための具体的な3ステップをお伝えします。
「数学が苦手」の正体は実力ではなく記憶の断絶
数学は他の教科と決定的に違う性質を持っています。それは、「単元同士が積み上げ式」になっていることです。たとえば二次関数を理解するには、その前段階として「比例・反比例」「一次関数」「平方根」「因数分解」がわかっている必要があります。さらに、それらの土台には「正負の数の計算」「文字式の処理」があり、最終的には小学校で習った「分数・小数」へとつながっていきます。
多くの方が中学校のどこかの単元で授業を聞き逃したり、体調を崩して数週間休んだり、あるいは不登校期間中にまるごと一学期分の内容が抜け落ちたりしています。本人は「自分は数学のセンスがない」と感じていますが、実際には連続したストーリーの一部分が欠けたまま、その上に積み上げようとしている状態なのです。読書に例えれば、ミステリー小説の真ん中50ページを抜き取られた状態で読み進めようとしているようなもの。話がわからなくて当然です。
このことに気づくと、「自分はバカだから数学ができない」という自己評価から自由になれます。能力の問題ではなく、埋めるべき「穴」がどこにあるかを特定する作業こそが、学び直しの本質なのです。
ステップ①:つまずきの「最初の地点」まで戻る
学び直しの第一歩は、「自分が完全に理解できなくなった最初のポイント」を探すことです。プライドが少し痛みますが、ここを飛ばしては絶対にうまくいきません。
具体的には、中学1年生レベルの問題集を一冊用意して、最初のページから順に解いていきます。スラスラできるところはどんどん飛ばしてかまいません。でも、「あれ、なんかわからない」「答えは合うけど、なぜそうなるか説明できない」という箇所が出てきたら、そこがあなたの学び直しの出発点です。
多くの方の場合、つまずきポイントは以下のあたりに集中しています。中1の「正負の数」「文字式」、中2の「連立方程式」「一次関数」、中3の「平方根」「二次方程式」「相似」。逆に言うと、これらの単元さえ丁寧に押さえ直せば、高校数学の入り口までは確実に届きます。
このときに大切なのは、「中学レベルの内容に戻ること」を恥ずかしいと思わないことです。むしろ、そこに戻れる人ほど短期間で伸びます。穴を放置したまま難しい問題集に手を出す方が、よほど遠回りなのです。
ステップ②:1日10分の「型」反復で脳を慣らす
つまずきの地点を特定したら、次は「短時間×高頻度」の反復で脳を数学に慣らしていきます。私が推奨しているのは、1日10分・週6日のペースです。長時間まとめてやるよりも、短時間を毎日続けるほうが、数学の学び直しでは圧倒的に効果が高いことがわかっています。
反復の対象は「型」です。たとえば一次方程式なら、「x の項を左辺に、定数項を右辺に集めて、両辺を係数で割る」という手順を、何問解いても迷わず実行できる状態を目指します。考え込まずに手が動くレベルまで持っていくのです。スポーツでいう「素振り」と同じで、頭で考える前に体が反応するくらい繰り返してこそ、応用問題に出てきたときに使える道具になります。
ここで多くの方が陥る失敗が、「わかった」と「できる」を混同してしまうことです。解説を読んで「ふむふむ、そういうことか」と納得することと、白紙の状態から自分の手で解けることは、まったく別物です。学び直しの段階では、「解説なしで5問連続正解できるか」を一つの基準にしてみてください。これをクリアして初めて、その単元は「できる」と言えます。
また、この10分の習慣化のコツは、「時間ではなく問題数で区切らない」ことです。「3問解こう」と決めると、難しい問題に当たった日は1時間かかってしまい、続きません。「10分やる、終わったら今日はおしまい」と時間で区切ることで、毎日机に向かう心理的ハードルがぐっと下がります。
ステップ③:高卒認定数学を「点が取れる単元」から潰す
中学数学の土台が固まったら、いよいよ高卒認定試験対策に入ります。ここで知っておいてほしいのは、高卒認定の数学は「全分野満点」を狙う試験ではないということです。合格ラインはおおむね40点前後。つまり、出題分野のうち取りやすいところを確実に押さえれば合格できます。
高卒認定数学の出題範囲は、数Ⅰの「数と式」「二次関数」「集合と命題」「図形と計量」「データの分析」が中心です。この中で最も取り組みやすいのが「データの分析」と「数と式」です。データの分析は、平均・中央値・分散・標準偏差といった計算ルールを覚えれば点が取れる単元で、関数や図形が苦手な人でも得点源にできます。「数と式」は中学で学んだ展開・因数分解の延長で、パターン認識さえできれば確実に解けます。
逆に、最初から二次関数や図形と計量に挑むと、グラフの読み取りや三角比の理解に時間がかかり、挫折しやすいので要注意です。「点が取れる単元から潰し、苦手単元は最後にまわす」——これが学び直し組の王道戦略です。
数学は、一度コツをつかむと階段を駆け上がるように伸びる教科です。最初の一段は重く感じるかもしれませんが、その一段を踏み出せた人は、その後の景色がまったく違って見えるようになります。「自分には数学は無理」と決めつけているうちは、その景色には到達できません。今日から1日10分、中学1年の最初のページからで構いません。あなたが取り戻すべきは数学の才能ではなく、ただの「抜けたページ」です。一緒に埋めていきましょう。