「うちの子、将来やりたいことが何もないんです」——進路相談の現場で、私が保護者の方から最もよく聞く悩みのひとつです。Career Mentorの永田(ながた)です。CLCで中学生・高校生のキャリア設計と進路相談を担当しています。結論からお伝えすると、「やりたいことがない」と語る子どもに親ができる関わりは、3つに集約されます——「待つ・整える・問いかける」です。今回は、子ども本人ではなく保護者の方に向けて、家庭でできる具体的な関わり方を整理します。
「やりたいことがない」は、まず正常な発達のサイン
多くの保護者の方が、わが子の「やりたいことがない」発言に動揺されます。ですが、進路相談の現場感覚を率直にお伝えすると、中学生・高校生の段階で「やりたいことが明確」なほうがむしろ少数派です。大半の子どもは、まだ自分の興味の輪郭をつかんでいる途中にいます。
背景には3つの構造的な事情があります。第一に、現代の中学生・高校生は、わたしたち親世代と比べて「触れた職業」「触れた人」の数が圧倒的に少ないこと。学校・塾・家庭という3点を往復する生活の中で、社会の手触りを感じる機会が極端に少なくなっています。第二に、SNS上の「キラキラ職業情報」が過剰で、自分の興味を口にすると「比較されて凡庸に見える」恐怖を感じやすいこと。第三に、「やりたいこと=一生続ける天職」という重い定義を、本人も家族も無意識に背負わせてしまっていることです。
つまり、「やりたいことがない」という発言は、能力や意欲の欠如ではなく、「まだ十分な選択肢に触れていない」「失敗を恐れている」「定義が重すぎる」という3つの背景から生まれていることが多いのです。この前提を保護者の方が共有できると、関わり方は驚くほど穏やかになります。同じテーマを子ども本人の視点で整理した「やりたいことがわからない」は普通ですもあわせてどうぞ。
視点①「待つ」——焦って正解を提示しない
1つ目の関わりは、「待つ」です。当たり前のようでいて、これがいちばん難しい。多くの保護者の方は、わが子の「やりたいことがない」発言に対して、つい「○○なんてどう?」「△△が向いてるんじゃない?」と正解候補を提示してしまいます。
親が選択肢を出すこと自体は悪くないのですが、頻度とタイミングを間違えると、子どもは「自分で考える前に答えが降ってくる」状態に慣れてしまいます。すると、進路選択の局面で「親が言ったから」「親の期待だから」と自分の意思の輪郭が見えなくなり、大学進学後・社会人になってからの軌道修正が極端に難しくなります。
「待つ」を実践するうえで、私が保護者にお伝えしている具体的な目安はシンプルです。子どもが「やりたいことがない」と言ったとき、最初の60秒は何も提案しない。代わりに「そうなんだね」「そう思うんだね」と受け止めるだけにする。これだけで、子どもの中で言葉が続きやすくなります。「やりたいことはないけど、強いて言えば○○は気になる」というようなかすかな興味は、急かさない時間の中でしか出てこないことが多いのです。
同時に、保護者の方ご自身にもお伝えしたいことがあります。「うちの子だけ進路が決まっていない」と焦る感覚は、保護者コミュニティ・SNS・親戚との会話などで増幅されがちです。ですが、進路は「同学年で横並びに決まるもの」ではありません。「将来どうしたいかわからない」に答える進路の見つけ方で書いたように、進路設計は本人のペースでデザインする営みです。
視点②「整える」——選択肢に出会える環境を用意する
2つ目は「整える」です。これは、子どもに正解を押しつけるのではなく、選択肢に出会える環境を整えるという関わりです。「やりたいことがない」と語る子の多くは、興味の素材になる体験そのものに触れていない、というのが現場感覚です。
「整える」の具体的な打ち手は、家庭規模でできるものが意外と多くあります。たとえば(1)親自身が日々の仕事・興味・人間関係を話題にすること。「お母さんは今日こういう仕事をして、こういう人と会ったよ」という会話が、子どもにとってもっとも身近な「働く人の手触り」になります。(2)家庭以外の大人と話す機会を意識的に作ること。親戚・近所・習い事の先生・ボランティア先のスタッフなど、評価者ではない大人と話すことで、子どもは「自分でも興味を口にしていいんだ」と感じられます。(3)本・ドキュメンタリー・職業体験などの「窓」を増やすこと。テレビでもYouTubeでも、職業や社会を扱った良質な番組は、子どもの興味の素地になります。
もうひとつ、保護者の方が見落としがちな打ち手があります。「学校以外の所属」を1つ持たせることです。学校・家庭という2点だけで進路を考えると、選択肢が極端に狭くなります。塾・部活以外のサークル・地域コミュニティ・進路コーチング・オンラインの探究プログラムなど、「家でも学校でもない第三の場所」があると、子どもの興味は格段に動きやすくなります。CLCの進学コースや起業コースは、まさにこの「第三の場所」として機能するように設計されています。
視点③「問いかける」——興味を引き出す3つの質問
3つ目は「問いかける」です。これは、押しつけるのでも、待ち続けるのでもなく、子ども自身の内側にあるかすかな興味を、言葉にする手伝いをする関わりです。私が進路相談で実際によく使っている3つの質問を、家庭で使える形に翻訳してお伝えします。
質問①「最近、時間を忘れて没頭したことは?」——「やりたいこと」を直接聞くのではなく、没頭できた経験を聞きます。ゲーム・マンガ・部活・友達との会話、なんでも構いません。「時間を忘れる」体験には、その子の興味の輪郭が必ず潜んでいます。大切なのは、出てきた答えを評価しないこと。「ゲームばっかり」と返さず、「どこが面白かった?」と掘り下げるのがコツです。
質問②「もし1日だけ、世の中のどんな職業の人にもなれるとしたら、誰の1日を体験してみたい?」——「将来の職業」を聞くと身構えますが、「1日体験」というフレームなら答えやすくなります。出てきた答えから、「人と話す仕事が好きそう」「ものを作るのが好きそう」など、興味の方向性が見えてきます。
質問③「あなたが大人を見ていて『この人すごいな』『この人みたいになりたくないな』と感じる人は?」——肯定と否定の両面で聞くのがポイントです。否定的なロールモデルからは「自分はこういう生き方は避けたい」という消極的な軸が見えてきて、これも進路設計の重要な手がかりになります。
これら3つの質問を、テスト前や進路面談前など追い詰められたタイミングでは絶対に使わないでください。車の中・夕食の片付け中・散歩中など、「ちゃんと話す姿勢になっていないとき」のほうが、本音が出ます。問いかけのスキルは、「やりたいことが見つからない」を解決する進路設計でも詳しく書いています。
「親の役割」と「外部の伴走者」を切り分ける
最後にお伝えしたいのは、「親がすべてを引き受けない」という姿勢です。中学生・高校生の進路設計は、親子だけで完結させようとすると、ほぼ確実に煮詰まります。親が冷静でいるためにも、本人が安心して相談できる第三者の伴走者を1人持っておくことを、強くお勧めしています。
進路相談のプロ、信頼できる学校の先生、塾講師、コーチング、年の近い先輩——だれでも構いません。大切なのは、「親には言えないけれど、その人には話せる」関係性が1つあること。これは、思春期の子どもにとって、進路だけでなく心理的な安全基地としても機能します。
CLCでは、本人と保護者の方それぞれと面談を重ねながら、家族のコミュニケーション設計まで含めて伴走しています。不登校の中3、高校進学を悩む親へでも触れたとおり、「子どもをどうにかする」より「家族の対話のリズムを整える」ほうが、結果として子どもの進路選択は前向きに進みます。CLC全体の伴走の考え方は私たちの想いもぜひご覧ください。
「やりたいことがない」は、終わりではなく始まりの言葉です。子どもの言葉を急いで結論に変換せず、「待つ・整える・問いかける」の3視点を、家族のリズムの中で少しずつ実践してみてください。半年後・1年後の進路面談で、お子さんの表情がずいぶん変わっているはずです。