ある日の夕食のあと、あるいは進路希望調査の締切前夜に、子どもがぽつりと言う。「高校やめて、高卒認定にしたい」——この一言を、親としてどう受け止めればいいのか。
私は経営者として自分の会社を運営しながら、Core Learning Community でキャリアメンターを務めています。仕事柄、地域の経営者が集まる場に日常的に身を置き、採用する側の本音も、子どもの進路に悩む同世代の親の本音も、両方を聞く機会があります。その立場から先に結論を書きます。この一言は、その場で賛成も反対もしないほうがいい。まず必要なのは、判断ではなく整理です。
この記事では、保護者の方が「賛成か反対か」を決める前に踏むべき手順を、5つに分けて整理します。制度の話も、感情の話も、どちらも避けずに扱います。
「高卒認定を取りたい」は、逃げの言葉とは限らない
まず前提として押さえておきたいことがあります。子どもが「高卒認定」という言葉を口に出せている時点で、その子は自分で調べています。
高等学校卒業程度認定試験(高卒認定)は、文部科学省が実施する国の試験です。合格すれば、高校を卒業していなくても大学・短大・専門学校の受験資格が得られ、多くの国家試験でも高卒と同等に扱われます。決してマイナーではありませんが、学校の進路指導で積極的に案内される制度でもありません。つまりその言葉は、たいてい子ども自身が検索してたどり着いたものだということです。
ここは、私が保護者の方とお話しするときに必ずお伝えする点です。「学校に行きたくない」だけで止まっている状態と、「高卒認定という別ルートがあるらしい」まで進んでいる状態は、まったく別の段階にあります。後者はすでに、現状から抜け出すための具体的な手段を自分で探しにいっている。逃げているのではなく、動いている。
もちろん、しんどさから離れたい気持ちが出発点になっているケースもあります。それ自体は否定される理由になりません。大人の仕事だって、環境が合わなければ変えます。問題は「離れたいかどうか」ではなく、離れた先に何を置くかです。そこは第4章で扱います。
まずは、頭ごなしに否定しないこと。ここで一度シャッターが下りると、子どもは次の相談を親ではなく検索窓にします。学校をやめたいという相談を受けた段階の向き合い方は「学校をやめたい」と子どもに言われた親へでも詳しく扱っています。
反対する前に——親が確認しておきたい制度の事実
感情の前に、事実です。保護者の方が反対する理由の多くは、制度への誤解から生まれています。よくある3点を挙げます。
誤解1:高卒認定は「高卒」ではない。これは事実です。高卒認定に合格しても最終学歴は中卒のままで、大学に進学して卒業すれば最終学歴は大卒になります。つまり高卒認定は「学歴」ではなく「受験資格」。ここを正しく理解しないまま賛成しても反対しても、議論がかみ合いません。
誤解2:一発勝負で、落ちたら終わり。これも違います。試験は年2回(例年8月・11月)実施され、科目ごとの合格が積み上がっていく方式です。一度合格した科目は次回以降に持ち越せるので、数回に分けて完成させる子は珍しくありません。不合格科目の立て直し方は高卒認定に落ちた科目がある君へ|11月再受験の戦略にまとめてあります。
誤解3:これまで通った高校の分が無駄になる。ここも誤解です。在籍していた高校で修得した単位に応じて受験科目が免除される仕組みがあり、英検・数検などの検定でも免除が認められる場合があります。「2年生の途中まで通った」なら、残りは数科目という状態もあり得ます。詳しくは高卒認定の科目免除とは?保護者が知っておきたい仕組みをご覧ください。
制度の細部は年度によって見直しがあるため、最終的な確認は文部科学省の受験案内で行ってください。ただ、この3点を親が把握しているだけで、家庭内の会話の質は変わります。事実が共有されていない状態での「反対」は、子どもには「調べもせずに否定された」としか響きません。費用や手続きの全体像は高卒認定の費用と制度Q&A|保護者向け完全ガイドに整理しています。
親の不安を分解する|学歴・就職・世間体
制度を理解しても、不安は残ります。当然です。ここは正直に分解しておきましょう。保護者の方が口にされる不安は、だいたい3つに分かれます。
不安1:就職で不利になるのでは
採用の現場に身を置く立場から言えば、答えは「進路によって変わる」です。新卒一括採用の大企業を志望するなら、大学を卒業していることが応募条件になるケースが多く、その場合に効いてくるのは大卒という学歴であって、その手前で高校を卒業したか高卒認定を経たかは、ほとんど問われません。一方、高卒認定のまま就職活動をする場合は、応募先が限られる場面が出てきます。「高卒認定だから不利」ではなく「そこで止めると選択肢が狭まる」——これが正確な言い方です。詳しくは高卒認定で就職はできる?学歴の扱いと現実で扱っています。
不安2:集団生活の経験が抜けるのでは
これは検討に値する不安です。ただし前提を一つ足したい。集団生活の経験は、学校でしか得られないものではありません。アルバイト、地域の活動、オンラインのコミュニティ、事業を立ち上げる過程での大人とのやり取り——年齢の違う相手と関わる経験は、むしろ学校の外のほうが幅が広いことすらあります。私が普段関わっている経営者のネットワークでも、10代のうちに大人と仕事の話をした経験を持つ人は、その後の伸び方が違うと感じています。問題は「学校に行かないこと」ではなく「誰とも関わらない時間が続くこと」です。
不安3:周囲になんと説明すればいいのか
言葉にしにくい不安ですが、実際にはこれがいちばん重い、というご家庭もあります。親戚に、近所に、職場に、どう説明するか。ここについては一つだけ。説明の必要がある相手は、思っているよりずっと少ない。そして「高卒認定を取って大学進学を目指しています」という一文は、たいていの場面で十分に通ります。通信制も含めた進路への保護者の本音は通信制高校、親の本音|賛成しきれない気持ちの正体に書きました。
賛成する前に決めておくこと——「取ったあと」の設計
ここが、この記事でいちばんお伝えしたい部分です。
私の経験では、高卒認定という進路がうまくいくかどうかを分けるのは、試験そのものではなく「取ったあとの時間」です。高卒認定は、多くの場合1年以内、科目免除があればさらに短い期間で完成します。問題はそのあとに残る、同学年の高校生が校舎で過ごしているはずの膨大な時間をどう使うかです。
この時間は、通信制高校でも実現しにくい種類の自由です。レポートやスクーリングという枠がない分、平日の日中がまるごと空く。しかし——経営をしている方なら実感があると思いますが、予定の入っていない時間は、何も生まないまま驚く速さで溶けます。「高卒認定を取ること」がゴールになっている計画は、合格した翌月から空転を始めます。
ですから、賛成の返事をする前に、次の3点を家庭で言語化しておくことをおすすめします。
①いつまでに取るか。年2回の試験のどの回を狙うかまで決める。②取ったあと、平日の日中に何をするか。大学受験の勉強、留学準備、事業の立ち上げ、アルバイト——具体名で決める。③どこまでを本人が決め、どこからを大人が支えるか。手続きは親、設計は本人、伴走は第三者、という分担が現実的です。
Core Learning Community が「オーダーメイドの進路設計」を掲げているのは、この②が一人ひとり違うからです。大学進学を目指すなら進学コースで、浮いた時間を総合型選抜の実績づくりや基礎の学び直しに振り向ける。自分で何かを立ち上げたいなら起業コースで、現役の起業家・ビジネスパーソンが伴走します。学校に行かないという選択を「空白」ではなく「前倒し」に変える——私たちが一貫して置いている前提です。取得後の時間の使い方は高卒認定を取ったその後|浮いた時間の使い方でも具体的に扱っています。
家庭での返し方|反対でも賛成でもない「第三の返事」
最後に、実際の会話の話をします。
「高卒認定を取りたい」と言われたとき、その場で返せる言葉として私がおすすめしているのは、賛成でも反対でもない「一緒に調べよう」です。
この返事には理由が3つあります。第一に、親が結論を保留していることが伝わる。否定されなかったという事実だけで、子どもは次も相談してくれます。第二に、調べる作業を共同作業にできる。受験案内を一緒に読み、免除科目を数え、日程をカレンダーに書き込む。この過程で、思いつきなのか本気なのかは自然に見えてきます。第三に、親自身の不安が具体的な情報に置き換わる。漠然とした不安がいちばん判断を狂わせます。
逆に、避けたい返し方も挙げておきます。「そんな甘い考えでどうするの」——調べた本人の努力ごと否定してしまう言い方です。そして意外に危ういのが、「あなたの好きにしなさい」。一見尊重しているようで、実際には設計の責任を10代に丸投げしています。関心がないと受け取られることも少なくありません。
もう一点。この話は、親子だけで抱え込まないほうがうまくいきます。進路の話は、親子だと感情が混ざります。「心配している」が「否定されている」に変換されて伝わってしまう。第三者が一人入るだけで、同じ内容が驚くほど素直に届くことがあります。私たちが保護者面談と本人のコーチングを分けて設けているのは、そのためです。家庭内での対話の設計は学校に行かない選択をした子と家族の対話も参考になるはずです。
「うちの子が急に高卒認定と言い出して、正直まだ整理がついていない」——その段階で構いません。LINEの無料相談に、学年・いまの在籍状況・本人が何と言っているかの3点だけ書いてお送りください。保護者の方だけのご相談も歓迎しています。全体像はサービス紹介、制度面のよくある疑問はよくある質問、私たちの考え方はCore Learning Community について、個別のご相談はお問い合わせからどうぞ。